歴史から種類、各部の名称まで!スーツの知識を丸ごと紹介!

スーツ

ビジネスシーンや冠婚葬祭の場で誰もが当たり前のように着ているスーツでも、案外知らないことは多いものです。
例えば、ジャケットの襟にあるフラワーホールの名前の由来や腰ポケットにある蓋の意味、ほかにも、肩のラインは国によってどう特徴が異なるのか……など、これらの質問にすらすらと答えられる人は少数派でしょう。
「スーツさえ着ていれば失礼にならない」といって何気なく着ていると、いつの日かその場にふさわしくない服装になっているかもしれません。
相手にとって失礼にならないような着こなし方を身につけ、仕事やプライベートでファッションをマイナスではなくプラスに生かすためにも、スーツについてのさまざまな知識を身につけておきましょう。

スーツの誕生と変遷

イギリスで生まれた「服装の構成」

スーツの歴史の始まりは、1666年10月7日、当時のイギリス国王チャールズ2世の衣服改革宣言によって生まれた「服装の構成」だといわれています。つまり、上着・ヴェスト・下衣・シャツ・タイをひと揃いにしたセットです。
スーツというと「同じ生地を使った上下セットまたは上下プラス、ヴェストのスリーピース」を思い浮かべる人が多いでしょう。しかし、実際には上下が異なる生地や色、柄のスーツ時代が衣服改革宣言から2世紀ほども続き、何より衣服改革宣言の組み合わせを洗練していったその延長線上に今のスーツがあることから、当時の「服装の構成」がスーツの原点と考えられています。
それまで大勢を占めていた、短胴着・半ズボン・マントという組み合わせと決別したという意味で画期的だった衣服改革宣言は、宮廷の貴族が倹約に努めていることを、服装というわかりやすいアイテムで国民にアピールしたいためでした。
チャールズ2世が倹約をアピールしたがった歴史的背景には、当時のイギリス情勢がありました。劣悪な住環境のもと、ペストの大流行に続いてロンドン大火という災厄に見舞われた国民の間には、不安や不満が募っていたのです。国民の怒りが宮廷に向かうのを回避するため、背中に装飾のない薄手の生地を使ったヴェストを取り入れることで、倹約をイメージ付けようとしたのが衣服改革宣言だったわけです。
しかし、当時のヴェストは上着に隠れた部分だけ質素で、見える部分は従来と変わらず華美な装飾が施されたといいます。さらに、丈は長く長袖で現在とは別物に近いものでした。

洗練され現在の形に近づく

衣服改革宣言は「鎧のようで窮屈な胴着から解放される」と、当時の男性に歓迎され、スーツは瞬く間に浸透していきました。
1700年代後半には、当時のスーツに独特の誇張やアレンジを施した「マカロニ・ファッション」が登場します。イタリア帰りの若者グループが従来のスーツを茶化した当時としては奇抜な服装でしたが、その影響は意外に大きかったようで、上着の折り返し襟や丈を短くしたヴェストなど、特徴のいくつかは現在のスーツにも残っています。
1800年代では、歴史的なスーツ革命が起きました。長ズボンの採用です。長ズボンはその以前から存在はしていましたが、あくまでも労働者階級や水兵が穿くものという位置づけで、上流階級の間では脚線美を重視してストッキングの上に半ズボンを穿くことが主流でした。ストッキングに半ズボンの時代はざっと300年以上も続いたといわれます。それが、19世紀に入ると、引き続き脚線美を重視したぴったりフィットするタイプではありますが、裾まで伸びる布の筒を備えたズボンを皆がこぞって穿くようになったのです。

現代のスーツの原型はくつろぐために作られた

現在のスーツの原型といわれるのは、1800年代中期に登場したラウンジスーツです。
当時の男性の正装といえば、日中は丈の長いフロックコート、夜は後ろの裾が燕尾の形に伸びたイブニングコートで、マナーとはいえ堅苦しく動きづらい服装でした。食事の場はともかく、食後、ラウンジに移って談笑するには窮屈だということで生まれたのがラウンジジャケットです。
丈が短めでゆったりしたラウンジジャケットは、くつろぐために作られました。下衣も上衣に合わせてゆったりしたズボンを合わせるようになっていきました。
当初はまだジャケットとズボンは別素材で作るのが当たり前でしたが、1860年ごろにはジャケットとズボン、ヴェストが同じ生地で作られたラウンジスーツを着る人も出てきます。一般への普及は早く、19世紀の終わりごろには、三つ揃えの黒いラウンジスーツを晴れ着として愛用する庶民が増えていきました。
以後、20世紀に入り2度の世界大戦を経て大衆社会の訪れとともに、ラウンジスーツは世界から正装と認められるようになりました。
もちろん、日本も例外ではありません。1800年代中ごろから、軍服に始まり、官吏の制服、知識階級、富裕層へとフロックコートや燕尾服が広まっていったものの、一般大衆へとスーツが普及するのは戦後でした。

スタイル別にみるスーツの種類

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さまざまな種類のスーツがありますが、ここではまず、全体的なスタイリングという視点からどのような種類があるのかをみていきます。

シングルスーツとダブルスーツ

スーツには、ジャケットのボタン配列が1列のシングルスーツと、ボタン配列が2列のダブルスーツがあります。ボタン数の主流は、シングルスーツでは2つまたは3つ、ダブルスーツでは2×2列または3×2列です。
シングルスーツの3つボタンはクラシックで伝統的モデル、2つボタンはモダンなモデルといわれています。ダブルスーツでは、ボタンの数が多いほどクラシックとされます。

現在はシングルスーツを選ぶ人が圧倒的に多く、ダブルスーツは一定以上の地位にいる人が着るもの、または、葬儀で身に着けていくものというイメージが強いのではないでしょうか。
実際、ダブルスーツを選ぶのは中高年層が多いようです。その理由は、おなか周りの布面積が大きいダブルスーツのほうが、年齢とともにせり出してきたおなかを隠すのに都合がよいということ、そして、重厚感があり逞しく見えるため地位のあるマネジメント層が好んで着たがる、という2つの理由が大きいでしょう。
しかし、若い世代がダブルスーツを着たからといってマナー違反にはなりません。最近は、従来のゆったりしたスタイルのものばかりでなく、シェイプされたシルエットのダブルスーツも出てきて若い人も選びやすくなりました。
マナー違反で気になるといえば、冠婚葬祭です。特に葬儀の場では、「やはりダブルスーツでなければいけないのでは?」と悩む人も多いようです。
確かに以前は、ブラックのダブルスーツが当たり前でしたが、現在はシングルスーツで葬儀に出ても失礼にはあたらないとされています。この場合はシングルかダブルかよりもむしろ、ブラックフォーマルかどうかが問われる場面です。準礼服と呼ばれるブラックフォーマルなら、慶事はもちろん、弔辞全般でも使えます。1着持っていると便利ですね。

代表的な4つのスタイル

スーツの形は、国によって異なります。代表的なのは、次の4種類です。

  1. ブリティッシュ
  2. イタリアン
  3. フレンチ
  4. アメリカン・トラディショナル

「ブリティッシュ」は、スーツ発祥の地であるイギリス風のスタイルです。しっかりパッドが入った肩のラインと、肩から胸にかけての立体的なボリュームにより、男性的な力強さを演出してくれます。ウエストは自然に細くなるようなラインで、絞る位置は少し高めに設定されているため、着る人をスタイルよく見せる効果を生みます。
「イタリアン」は、イギリス生まれのスーツを独自にアレンジし、男性美を追求したものです。最大の特徴は、ウエストを絞り、ヒップラインを強調している点でしょう。肩にパッドを入れない、生地は薄く柔らかいものを使う、といった仕様が典型的です。
「フレンチ」は、ブリティッシュよりもファッショナブルでイタリアンよりも落ち着きがあるという、両スタイルの中間的なイメージです。パリコレなど女性ファッションで知られるフランスらしく、ドロップショルダーというなめらかな肩のラインなど、女性的なディテールもこのスタイルの特徴です。
「アメリカン・トラディショナル」はブリティッシュスタイルの流れを汲み、アメリカ東部を発祥とするスタイルです。パッドを入れず肩を怒らせないナチュラルショルダーや、あまり絞られていないウエストデザインなど、体格の良い人でも窮屈さを感じないボックス型シルエットが特徴です。

ディテールでみるスーツの種類

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ここでは、見た目の印象を決めるポイントにもなりうるスーツの細部や部位について、どんな種類があるのかをみていきます。

ジャケットの襟型の種類

ジャケットの上襟のことを「カラー」、下襟を「ラペル」といいますが、多くの場合、上襟と下襟が縫い付けられています。そしてその縫い付けられた部分を、「ゴージライン」と呼びます。
ラペルはレギュラー幅である8センチ前後よりも細いものを「ナローラペル」、広いものを「ワイドラペル」という名称で区別するなど、区分の方法はいくつかありますが、ここではデザインによる種別に絞って紹介します。

ラペルの代表的なデザインは以下の5つです。

  1. ノッチドラペル
  2. セミノッチドラペル
  3. セミピークドラペル
  4. ピークドラペル
  5. ショールカラー

「ノッチドラペル」はひし形のラペルです。剣先とも呼ばれるラペルの先がゴージラインの角度と同じで、まっすぐ斜め下へ直線状に延びています。シングルスーツのほとんどはこの形状で、もっともオーソドックスなタイプです。
「セミノッチドラペル」はノッチドラペルからやや剣先が上がった形状になります。
「セミピークドラペル」は、さらに剣先が上がった形状ですが、「ピークドラペル」ほどではなく、比べるとややおとなしい印象です。
「ピークドラペル」は剣先が上に向かってとがっている襟型です。ダブルスーツに多いのですが、最近ではシングルスーツでも見かけることがあります。
「ショールカラー」は、その形状からへちま襟とも呼ばれます。カラーとラペルがつながってゴージラインもなく一体化した形です。タキシードに使われています。

ベントの種類

「ベント」とは、ジャケットの後ろの裾に入った切れ込みの名称です。もともとは、イギリスの兵士が馬に乗るとき、ジャケットが突っ張らないようにと入れられたスリットが由来だといわれています。
こちらもいくつか種類がありますが、代表的なのは以下の3つです。

  1. センターベント
  2. サイドベンツ
  3. ノーベント

「センターベント」は、その名のとおり中央に1本切れ込みが入ったスタイルのことです。日本では「馬乗り」とも呼ばれます。シングルスーツで使われることがほとんどです。
「サイドベンツ」は、後ろ身ごろの両サイドに2本切れ込みが入ったスタイルです。ベントの複数形なので、「ベンツ」になります。ダブルスーツでよく使われる形状です。
「ノーベント」は、タキシードなどフォーマルシーンでしかほぼ見られないスタイルで、その名前のとおり切れ込みが入っていない形状を指します。

ジャケットの腰ポケットの種類

腰ポケットは、ジャケットの形を崩さないためにも、基本的にものを入れないというのがルールになっています。装飾としての意味もある腰ポケットの形にはいくつか種類があります。以下の代表的なものをみておきましょう。

  1. フラップポケット
  2. チェンジポケット
  3. スラントポケット
  4. ノーフラップポケット

「フラップポケット」は、水平につけられたポケットの口にフラップのついたものを指します。フラップはもともと野外で雨が降った際にポケットの中身が濡れてしまうのを避けるために作られたものであり、外出時には外に出し、室内ではポケットの中にしまうのがスーツにおけるフラップのルールでした。
「チェンジポケット」は、従来の腰ポケットの上につけられた小さなポケットを指します。もともとは、小銭をしまうための小ポケットだったため、「チェンジ(小銭の釣銭)」と呼ばれるようになりました。
傾くという意味そのままの「スラントポケット」は、ジャケットに対してポケットの口が斜めにつけられている形状のものです。ポケットの中のものが落ちにくいようにと考案されたといいます。
「ノーフラップポケット」は、言葉のとおりフラップがないポケットの形状です。屋外で着用しないフォーマルウェアでは雨よけのフラップは必要ないということから、フォーマルウェアに多い形状です。

柄・生地でみるスーツの種類

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見た目の印象だけでなく、快適性や機能性にも関係してくる柄と生地は、どのようなものがあり、それぞれの特徴は何かを紹介します。

スーツでポピュラーな柄

もっともオーソドックスなのはどんなシーンにも使えて便利な無地でしょう。ブラックはフォーマルウェアとしても使えます。ここでは、無地以外で代表的な柄をあげてみます。

  1. ストライプ
  2. チェック
  3. シャークスキン

「ストライプ」もさまざまありますが、チョークで描いたような太さの「チョークストライプ」、鉛筆ほど細い「ペンシルストライプ」、さらに細く、線がピンの頭のように点線状に入っている「ピンストライプ」など、どれもビジネスシーンではおなじみのデザインです。太いストライプは華やかで印象的、細いストライプは繊細で太いデザインよりもフォーマル度は上になります。
そのほか、2種類の異なるストライプを交互に配した「オルタネイトストライプ」や、織りがニシンの骨のように見える「ヘリンボーンストライプ」、撚り方向の違う糸を組み合わせて生まれるシャドウ効果で光の当たる角度によってストライプが見え隠れする「シャドウストライプ」などがあります。

「チェック」では、千鳥格子に極細の線で形作った小さいチェックで構成される「グレンチェック」、グレンチェックの上にさらに1本線の格子柄を載せた「オーバーチェック」、窓枠のような単純な1本格子の「ウィンドウペーン」などがあります。

「シャークスキン」は、濃淡や色が違う糸を1本交互に配列して綾織り、階段状にしたもので、サメの肌のような風合いが出ることからこの名称がつけられました。

よく使われる生地

見栄えや着心地、耐久性など、素材によってスーツはさまざまな特性を発揮します。スーツで使われる代表的な生地は以下の5つです。それぞれの特徴をつかんでおけば、スーツ選びでの参考になるでしょう。

  1. ウール(羊毛)
  2. カシミア
  3. コットン(綿)
  4. リネン(麻)
  5. 化学繊維

スーツの生地としてもっとも使われるのは「ウール」です。保湿性、吸湿性、弾力性が高く、耐久性もある優れものの自然素材ですが、縮みやすいのが難点です。
羊毛という意味では、生後約半年までの仔羊からとった高価な「ラムウール」や、イギリスの山岳種羊からとれる丈夫で光沢ある「チェビオット」、同じくイギリスの羊毛である「シロップシャー」などもあります。

「カシミア」はヒマラヤ山麓カシミール地方のカシミア山羊からとれる毛を指します。手触りは柔らかく、保湿性に優れ、美しい光沢を放つ魅力的な素材ですが、1頭からとれる毛の量が少ないため高価です。

衣類全般でもっとも使われている「コットン」は、丈夫で熱にも強く、保温性、吸湿性、通気性にも優れています。難点は、洗うと縮んだり色落ちしやすかったりすることです。しわになりやすいこともあり、カジュアルなスーツでよく使われます。

「リネン」の特徴は、なんといっても水分の吸収・発散力に優れているところでしょう。夏には最適の素材ですが、価格はやや高めで、しわになりやすく、どちらかというとカジュアルな印象の素材でもあります。

「化学繊維」は、全般に丈夫で安価、お手入れも楽という優れた素材ですが、ウールなどの自然素材に比べて高級感に乏しいという面があります。
化学繊維でスーツに多く使われているのは、「ポリエステル」です。非常に丈夫でしわになりにくく軽量という特徴がある一方、吸湿性が低いため静電気が起きやすくなります。「レーヨン」は、スーツの裏地によく使われます。絹の質感に似て柔らかい触り心地で光沢があり、吸湿性にも優れていますが、水にぬれると強度が低下し、しわもできやすくなるため、お手入れには注意が必要です。

意外と知らないディテールの名称

スーツはいくつものパーツで作られていて、それぞれに名称が付けられていますが、そうしたことを意識していなければ案外わからないものです。
ここまでにも、下襟の「ラペル」やジャケットの「フラップポケット」など、いくつか登場しましたが、あらためて主なディテールの名称をまとめてみました。

  • ショルダーライン:ジャケットの肩線のこと。多くの種類がある
  • アームホール:袖部を付けるために本体に開けられた穴のこと。袖ぐり
  • フラワーホール:ラペルに開いたボタンホールの名称
  • フロントダーツ:立体的なシルエットにするため、前身ごろの胸から腰にかけて縦に入ったつまみ縫い
  • フロントカット:ジャケットの前身ごろの裾に入れられたカッティング。いくつか種類がある
  • クリースライン:ズボンの両足中央に入った折り目
  • ウエストバンド:ズボンのウエスト部分に付けられた帯部分
  • ピスポケット:ヒップポケットのこと。左側だけボタンがあるのが一般的

補足すると、まず「ショルダーライン」の種類ですが、肩先が落ちているような「ドロップショルダー」や、袖を一般的な位置よりも内側に付けスリムに見せる「ナローショルダー」、袖の根元を高く盛り上げたブリティッシュスタイルの「ビルドアップショルダー」など、さまざまなスタイルがあります。

「フラワーホール」は、もともと風よけで襟を立てたときにボタンをとめるためのボタンホールの名残で、のちに花を穴に通すようになったことから、このような名称になりました。シングルスーツでは左側だけ、ダブルスーツでは両側にボタンホールが作られていることが多いです。

「フロントカット」の主なスタイルは、前身ごろの裾を小さめに丸くカットした「レギュラーカット」、レギュラーカットよりも大きく丸くカットした「ラウンドカット」、丸みをつけずに角形にカットした「スクエアカット」、モーニングのように腰あたりから丸みを付けてカットした「カッタウェイ」などがあります。

知識を深めてもっとスーツを楽しもう!

戦後まもなく一般に広まり、今や1着も持っていないほうが珍しいというほどスーツは日本に普及しました。それほど身近なアイテムですが、実は浅からぬ歴史があり、ディテール一つひとつにも意味があるということを知っている人は多くいません。
せっかく身近にある面白い題材を、単なる「道具」だけとして使い倒してはもったいないですよね。歴史やディテールについて詳しく知っていると、着ることが今よりも楽しくなるはずです。まずは、ほんの少しスーツに意識を向けることから始めてみませんか?

 

参考: